ネズミ男 「来たぞ、行け!」
鬼太郎 「さぁ観念しろ!」
ネズミ男 「・・・・・・あら?」
鬼太郎 「・・・・・・」
ネズミ男 「なんか、アレだな、思ったよりも・・・その、なんともない?」
女 「何のつもりだこの馬鹿畜生共」
ネズミ男 「塩っ辛ぇ水でよ、あれ、環境が違うからよ、苦しんでのたうち回るとか・・・・・・あの、なんともない?」
女 「多少の塩水程度でどうにかなるかよ、金魚にゃ塩は薬になるんだよ!金魚飼った事無いのかいこのネズミ面!」
ネズミ男 「ネ、ネズミ面・・・こんにゃろそりゃ俺のアイデンティティだ!」
鬼太郎 「よけてろ、ネズミ男!」
鬼太郎 「どっちにしろこれで終わりだ!どうだ大人しくするか、言う事を聞くと誓うか!」
女 「あぁあしびれる、くるしいくるしい、おのれあんたは毎回これだ、大人しくさせて『それで良いんだ』などと、などと、などと!良いもんかよ、何一つとして良いもんかよ!あぁあ!」
鬼太郎 「まだわからないのか!」
女 「わからないのはどっちだよ!」
鬼太郎 「このわからずや!」
ネズミ男 「やり過ぎだぜオイ、とは言えねぇよ。怒らせたらもう、手が付けられねェ」
男の声 「待って下さい」
男の声 「待って下さい、その女を責めるのはもう、止めて下さい」
ネズミ男 「あってめこのやろ、今更何しにノコノコと」
鬼太郎 「引際さん」
引際 「藻ヨ子!」
ネズミ男 「な、何だ名前か?」
引際 「藻ヨ子!さぁ僕が来た、お前を求める僕が来た!もう逃げない、今度こそ逃げない!」
ネズミ男 「(小声で)・・・死んだの?」
鬼太郎 「いや、そんな筈は、・・・無いけど。・・・何だよ。」
引際 「僕は自分だけを愛していた。思い出の中だけの君の姿を追っていた。実際に傍に居てくれる君のことには目もくれないで。与えられるものを当然として、開放された先にある自由は、などと浮付いたことばかり考えて。何ひとつ答えようとはしなかった。僕は甘えた、最低の男だ」
引際 「正直こんな僕が今更、何を与えられるのかわからないけれど。与える、という驕りはこの際抜きにする、だって君は求めた、求めたのに僕は拒絶した、だから僕は返したい、もう望まれなくても遅すぎていたとしても返したい、今まで君が与えてくれた全てに対して。今度は僕が追っていく、君を愛すると追っていく!」
女 「何、今更」
引際 「自己満足でも何でも良い、もう君から離れまいと決めたんだ!」
女 「あぁ、どこまで馬鹿。ほんと、開いた口が塞がらない」
引際 「大事だったんだ、何より大事だったんだ、気付くの遅くてごめん、いつまでも自分本位でほんとうにごめん」
女 「口先だけ。あんたの万年モラトリアムにはもうこりごり。言葉ならいくらでもなんとでも言える。証拠は。あんたがこのたびいざ思いを貫きますっていうね、何か証拠でもあるってかい」
引際 「あぁ、見てくれよ」
引際 「指輪だ」
女 「ゆびわ」
ネズミ男 「あれ買いに行ってたのかよ」
引際 「ほら指輪だ、君と僕とを縛るための指輪だ」
鬼太郎 「引際さん!あんたまさか」
引際 「手首を切って金魚鉢に放り込んで来ました。僕は考えていたのです」
引際 「行こう。いや、お願いだ、共に行って下さい。この指輪で永久に縛られる事を誓って下さい。君と僕が永遠に共に在ることを。幼い頃からの希いを約束を。どうか叶えて下さい。僕でよければ、いやどうかこんな僕をもう一度、愛して下さい、お願いだ」
女 「あぁ、これは、これはほんとうに」
引際 「藻ヨ子愛してる藻ヨ子」
女 「引際く・・・」
女 「馬鹿だ。ほんとにまったく似たり寄ったりどうにも仕様が無い馬鹿だ。
・・・・・・そしてあたしも、心底馬鹿だねぇ」
ネズミ男 「何だったんだ一体」
鬼太郎 「知るか」