(おなかが痛くて、夜中目が覚める)




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 おなかがいたい。
 おなかが痛いまま眠りについたんだ。よくない夢見るに決まっている。
 案の定見ちゃった夢なんか鉄板って感じで定番でお決まりで あぁ頭にくる。おなか痛いのに頭にまで構ってられないっていうのさ。あぁ気分悪い。気持ち悪い。
 なんかもうだめって思っちゃう。おかしいよなぁ。
 なんかもうだめなのかなぁって怖いなぁ。だめなのかなぁ。さみしいなぁ。あぁまだおなかいたいなぁ
 薄目を開けたら、
 あーまたかぁって思った。
 こういう気分になる時って、たまにこういうことが、起こったりするんだ。
 いつものぼくの部屋じゃない。
 そこは白いベッドで、白い大きな部屋で、明かりも無いのに明るくて、窓の外は真っ暗。何も見えない。
 知らない場所の知らない空間に居たりする。
 扉。巨大なやつ。そこだけ暗い赤と仰々しい金で飾られた、重くて絶対開かない扉。ふたつあるんだけど、
 向こうにも誰かが居るみたいでね、
 かさかさ、本のページを捲る音がする。
 アドゥンブラリ アフォーゴーモン イオド スマヌス ヴァルトゥーム
 だからにんまりとぼくは笑う。
 イドラー カイス=アズ ハイドラ ハガーグ・リョニス バグ=シャーシ 暗闇より来るもの、黒きもの
 こんな本を読むこどもはぼくとあいつとかしかいない
 会った事もないけれど 知らない子だけど
 こんなのって全くもって変な現象だけど
「おーい、ねえ、起きてる?」
 ぼくとおんなじ呼び名で、呼ばれているらしい、
「まーつしたくーん」
 一拍置いて、扉の向こうから、こんこんこん。いつものめんどくさそうなノックが響いた。
「起きてるよ」


「おなかがいたい」
「おなかが痛いのか、そうか」
 ぱらり、ぱらり、ページを捲る音。規則的な、一定な。硬くて仰々しい巨大な扉の向こうから聞こえてくる音。ぼくはすっかり起き上がりベッドに腰掛けて、足をぶらぶらさせている。
「怖い夢見た」
「怖い夢見ちゃったか、そうか」
「君ねえ聞き流してるんじゃないよ、何かしようとかしてくれよ何とかしてよ」
「何とかって、どうしようもないだろ、聞くしかないだろう、聞くだけしか」
 この扉は絶対に、開かないし。
「目を閉じて横になってれば痛みも和らぐし、その内眠れるさ。忘れるさ」
 なんで時々いつの間ににか、こんな場所に来てしまうのか、さっぱりお互いわかってないし。
 全くもっておかしな現象だ。
「人事だと思えば簡単に言っちゃえるよねー、あー今人事じゃないかって言おうとしただろう言う準備しただろ、お見通しですーわかってますーいたたたたあーおなか痛いようやだ」
 ぼくらまだ一度もお互い、その顔を見た事が無い。
「うるさいな黙って寝てろ。騒ぐなよ。騒ぐからだろ。具合悪ければおとなしく寝るのが最善策だ」
「メンタルの問題だよ」
「お前はそんなに繊細なのかよ」
「怖くていやな夢をみた。なんかもう、もうだめかもって思っちゃうような。思うのもおかしいんだろうけど、正しくないし、在り得ない事なんだけど、でも見た。怖かった。もうだめかもなぁって思った。だめになるかもしれないような」
 あんた誰なのさ。
「このままじゃ怖くて死ぬ多分」
 どうしてきみも メシア なんて呼ばれてるのさ。
「夜見る夢に殺される奴など居ない」
 わかっているのは きみも ぼくも そう 同じ呼ばれ名
「それにお前みたいな奴は、絶対大騒ぎした後けろりと眠り込んでしまうパターンだから、大丈夫」
 おそらくはね 並行する世界での 確率 同一存在である 『悪魔くん』 って事なん だろう さ
「君失礼だよぼくのことなんだと思ってあーいたたたたたいたいよう」
「うるさい。お前はうるさい」


 ここは白いベッドで、白い大きな部屋で、明かりも無いのに明るくて、窓の外は真っ暗。何も見えない。
 重苦しい暗い赤と仰々しい金で飾られた、巨大な絶対開かない扉がふたつ。扉の向こうに、こどもの気配。おんなじ呼ばれ名の、おんなじ役割、おんなじな使命を背負ったこども。境遇はそれぞれ違うみたいだけど(今ぼくと話してるこの子なんか どうやらお坊ちゃまらしいんだぜ!なにそれ!)
 時折ここに招かれる。眠りの間だけ、つかの間ここに招かれる。
 まるでおしゃべりでもしなさいっていう計らいみたいにね。いやらしいよね、なんか。
 だから唇ひんまげて笑っちゃう。可笑しくてたまんないけどそうやって笑っちゃう。
 互いの顔は見れないんだけれどね。見たくても、どうしても、まだ一度も見た事がないんだけどね。
 互いの部屋を隔てている扉は、決して開かないから。まるで運命みたいに。
「隣の扉の奴は、今日はどうしてる。来てるのか」
「隣の扉?埋れ木くんのこと?わかんないけど気配がないから、今日はここに来てないみたいだ。っていうかさぁそっちからも見えるでしょ。君もこっち来てる訳なんだからおんなじ部屋でしょ。わかんないわけ無いじゃんよ」
「……あぁ」
「何その今気付いたっていうそれ。どれだけ周り見ないんだよ君」
 お前には言われたくねえな、それ。おそらく口の端だけで呟いているんだろうな松下くんの、手元からぱらり、ぱらり。相変わらず一定の速度で捲られてゆく、聞こえてくる書物の紙擦れの音。ぼくは唇ひん曲げ突き出しぷするるる、音にならない音を震わせながら頭をわしわし掻いてみる。ぶらぶらさせる足。足首がさらさらと寒い。なんとなく視界は、うつろだ。一点に定まらないふらつくばかりの視点。
 不安だ。不満だ。
「何今更怪物奇書なんか読んでるんだよいーまーさーら。……っていうかあのさーそうだよあのさぁ、来てるのか?とかってさ、聞くのもなんかおかしいでしょ君。こんだけぼくらが騒いでるのに何にも言ってこないわけが無いよあの子なら、埋れ木くんっていうのはすっごく」
「知り合いにハイドラっていう名前の奴ができてな……いや騒いでるのはお前だけだ。お前さっきから何をそんなにイライラしてるんだ。何怒ってるんだよ」
「おなかが痛いんだよ」
「またその話か」
「ちょっと何勝手に君の中で終わった話になってるんだよ!?こっちはずっと現在進行形なんだよ苦しんでるんだよずっと!あーいやだ信じられない、びっくりした、君信じられない」
「あんまりうるさいから元気なのかと思ったんだよ。治って良かったな」
「うわぁどれだけぼくの苦しみを君の中で無かった事にしたいの君。あーもうやだ。信じられない。こんな子を友達だとおもってたぼくを無かった事にしたい。あーやだもーやだもー」
 ……おい、何聞き捨てならない事をさらりと呟いてるんだお前……ゆっくりとひきつり強張った顔で扉の、ぼくの方の扉をようやく振り返った気配の松下くんに、足の裏思いっきり突き出して、ぼくはすとーんと勢いよく巨大なベッドに引っくり返る。大の字に転がる。強気でいってみる。
 不安だ。不満だ。やっぱりそれでも眉間はぎゅっと縮こまったままだ。
 いたいなぁ。
 痛いんだよ。ほんとにさ。不安が喉元までせり上がってくる。調子付いて。付け上がって。
 喋ってないと押さえ込めない。でもどんどん体は弱ってくるの。いらいらする。不快だ。
 何にもできないまるで子供そのものじゃないか、これさ。
 こんなんじゃ
「……おい、ちょっと、なんだ、おい、山田お前泣いてるのかおい、どうした」
「おなか痛いからっておなか押さえてうずくまりたくないぃーー……」
 くやしいなぁ
 くるしいなぁ もう やだ
 ぼくひとりの問題すらぼくひとりで片付けられないなんてこんな無力やだ。
 こんなんじゃとうてい
「お前、そんな苦しいんだったら早くそう言えよ、言ったって何もならないか。いや、なんだ、その、ともかくだな、お前もう帰れ。帰って本当におとなしく寝ろ。休め。メシアを名乗る奴が腹痛で泣いてどうするんだお前。もう帰れ、休め。ゆっくり」
「いやだー帰らない。ここで何とかする。何とかしてそして現実に帰還するんだぼくは。勝って、大いばりで、……ううう痛いようおなか痛いよううええううー」
「もう言葉になってないぞおい、なんなんだよその意地っ張り、お前……子供か!」
 きみがいうな。

 こんなんじゃとうてい 救世主なんて 名乗れないじゃないか
 自分ひとりも救えないような奴に何者かを救えるものかっていうんだ
(泣きじゃくって、うずくまりたくなんかない。無力さに逃げ込んで地べたへ俯くのは気分悪い)
 くやしい くるしい 助けて、自分。救世主。


 薬とか ないのか この意味の無い部屋には
 そう言ったのは松下くんだった。
 遠慮がちに、しかし思慮深く、考え込むような口振りで低くぼそりと、呟いた。多分口元に指かなんか当ててる。
 薬とか あるんじゃないか 意味不明な空間だけどな 有事に備えての常備物とかは用意されてるかも知れないぞ
 起きろ。(まるでぼくが寝っころがってじたばたしてたのが見えてたかのような言い方)
 探すぞ。
 くやしいんだったらじっとしてないで足掻け。そんなにくやしいのだったなら。足掻くぞ。
 おなかがいたい なんとかしようぜ すくおうぜ じぶんを せかいを すくおうぜ
 仮にも救世主と名の付く子ふたり ふたりも揃って それならば
 うん。そうだ。足掻き開始。


 このおかしな空間のおかしな部屋の、間取りは3つ揃って全く、同一だ。
 手抜き工事だったんだろうさ、ぶつぶつ呟きながら松下くんが右側の壁の作りつけの棚2段目に、手を伸ばしたはず。
 ぼくらを隔てるあの扉は絶対、開かないし、ぼくらは声を掛け合って、同じ部屋の同じ間取りの、隅から隅へとあちこちがちゃがちゃ、引っくり返している。物凄い散らかしている。
「そっちの状況はどうだ」
「チョコレート発見しちゃったよ。メフィストこれで呼べるかなぁ。あいつ魔力腹痛封じの技とか持ってないかなぁ」
「そんな都合のいい魔法があるか……だいたいこの状況、夢じゃないんだが、夢みたいなもんだろ、現実の事象には一切関与されないんだろ、だったらお前のその使用人兼使徒だってここには来れないんだ」
「使用人って何さ。わかってるよ。ただあいつがここにいたら何かと便利かなって思っただけだよ。あーほんと碌なもの出てこないよ。ぼく力尽きてしまうよ」
「減らず口叩いてろ、気が紛れるからな。さてしかしだ本当に参ったな。ここにはお喋りしつつお茶を楽しむだけの道具しか用意されてないらしい」
 サモワールとか、アラザンとか。凝った青銅のドリッパーやら、タコとカタツムリの飾りのポット。くだらない!おなかが痛い今、そんなものはなはだしくくだらない!
 一緒に飲む相手のご用意なんか、扉の向こうに隔たれてるって、いうのに。
 意地悪だよね、ここを作った誰か。全くとんでもない性格の悪さ。
 ぼくら一度も、お互いの、顔を知らない 見た事が無いんだよ!
「あーもうなんか色々腹立ってきた!いたいおなかいたいいたいちくしょう!」
「……おい何か見つけたか」
「冷静だよね君。お茶っ葉ならうんざりするくらい見つけたよ。いらないよこんなに」
「……こっちも見つけた」
「そろそろ違う場所にとりかかる?」
「見つけた」
「お茶会なんかしないぞぼく」
「おい馬鹿よく見ろ、それともこっちにだけあるのかこれは?袋詰めの茶っ葉だよ、薄い色の、系統の違うものがあるだろ、メグサ薄荷だ」
「オレンジのリボンのやつ?何これ」
「お前なぁハーブの知識くらい仕入れておけよ、いいかこれはメグサ薄荷だ、ペニーロイヤル。鎮痛作用があるんだ、効くかも知れない」
「えー」
「えーじゃねえよ。いいから飲んでみろ。藁にも縋る思いで飲んでみろ。鰯の頭もって言うだろ」
「なんか苦そうだもんよーひとりで飲むのこれえーやだよえー」
「……お、お前な、泣いてたくせに、泣いてたくせになぁなんだそれ!」
「痛いよ泣くほど。つらいよ、変わんないよ、くるしいんだよ。だからさひとりで飲むのなんてやだよ」

「や、薬缶。薬缶はどこにあるんだ、おい」
「落ち着いて松下くん。やかんはコンロの上にかかってあるよ。目の前だよ」
「うるせえ。水入れたか、早くしろ。……おい火はどうやって点けるんだ?」
「知らないよーそんなものー。ぼくお湯なんて沸かした事無いもん」
「僕だってねえよ。お前僕より年上なんだろ、頼むぜ」
「あーやだお坊ちゃまってやつぁこれだからまったく。捻ればいいんじゃなかったっけ?そんな感じだったような」
 お茶を淹れよう、大騒ぎ。子供がふたりガスコンロの前で、背伸びして大騒ぎの巻。
 笑っちゃうよね、仮にもふたり、救世主という宿命を背負っているこどもふたりが
 お茶の淹れ方ひとつわかんない手探り大冒険だってさ、うふふ。
 あ、それとも救世主は、お湯なんて沸かさなくったっていいのかな。どうなのかなその辺り。
「あ、点いた!おい僕は点いたぞ山田、わかったぞ、押しながら、捻るんだ、そうするとガスが出てきて点火だ。わかったか?」
「押しながらー?……うわっ、わ、点いた。点いたよこっちも。わーいやったね」
「で、これからどうする。湯が沸いて、それからどうする」
「えーぼくはね、うーん、熱いのが怖いんだけどさー、やかんの中にとりあえずこのお茶っ葉を全部ぶち込んでみようかと思うんだー」
「違……違う、お前多分それは絶対違うぞ、何の為のあのご立派なティーポットだよ、あの中に茶っ葉を入れて湯を注ぐんだよ、推測だがな。推測にしか過ぎないが、お前が言ったやり方が間違っている事だけは断言する」
「はいはい偉そーうにお坊ちゃまめ。めんどくさいよなー。お茶なんて淹れるのはそれこそメフィストの仕事なのにさ」
「偉そうなのはどっちなんだ……お前って奴はほんと……お前の使徒の、そのメフィスト老とやらに、僕ぁ酷く同情する。こんな奴に呼び出されたばっかりに……こんな奴が、メシアとはなぁ……」
 ぼくら初めて、ここで知り合い、一番初めに松下くんに、ぼくが言われたこと。『お前な本当に、メシアか!?』
 知らないよそんなの。思い出して、ぼくは扉の向こうに向かってイーッして思い切り舌を出す。知らないよ。ぼくはぼくだぜ。ぼくがやりたい事を、ぼくはやってやるだけさ!
 ねえ、でもさ。
「君、前とちょっと変わったよね。なんだか」
「あぁ?」
「使徒に対して可哀相とか、前なら絶対、そんな事言わないよね。……それにさぁこうやって、薬とか、お茶とか、試行錯誤で付き合ってくれるもん。おなかが痛いの、ぼくの不安も、君、凄い心配しているもん」
「……そうかな」
「そうだよ。気付いてなかった?」
「こっちはただ、お前の喚き倒しがうるさくて、早くどうにかなってくれと願うだけなんだが」
「そう言えば君、しばらくこっちに来てない、居なかったみたいだったけど、何かしてたの。どこか行ってたの」
「あぁそう言えばな、ちょっとな、死んでたんだわ。地獄に行ってきたんだ」
「何それ。おっかしい」

 あぁもうもどかしいったら!
 それはこっちだって同じ事だ!
 扉が開けば すべてはうまくいくのに
 扉が開けば 開くなら ねえ
「や、やかん、お湯、熱いよー怖いよー、これすっごい煙出てるよ、持つの怖いよ重たいよー」
「た、頼む早くしろ、早く持ってくれ、こっちは今手がすげえプルプルしてるんだ!熱いんだ同じだ!」
「君もう持ってるの!?何すごい勇気!かっこいー待ってて今ぼくも……うわー怖いよーわー!」
「タオルで持ち手を包むとか、工夫してるかお前!?……持ったか、持ったな!?」
「持ったよー!そうかータオルか……君気が利くねあつーいよ重いよなんだこれー!」
「よし持ったな!じゃあせーのでテーブルまで運ぶぞ、行くぞ、せーの」
「せーのこれ零しちゃったりしたらどうなるんだろう」
「そんな恐ろしい事を今想像させるな!」
 ねえ
 あのさ、
 もし扉が 開いて
 ぼくと君が 出会う事ができて お互いの 顔も知る事ができてげらげら笑い合えて
「ねー」
「なんだ」
「もどかしいね」
「あぁ」
「いらいらするね」
「ほんとだぜ」
「この扉、なんで開かないんだろうね」
 ぼくらいっしょに
 もしいっしょにいることが できたなら きっと どんなにか
「開いたら、こんなに、面倒な事もないのに。開いたら、一緒に、向かい合ってお茶だって飲めたのに。開いたら」
 どれだけ どれだけの よろこびを きっと ぼくらは おたがいに ぼくらは
「ねえ、ぼくらさ、いっしょにさ……」

(いっしょに せかいを すくえれば よかったのに ねえ)

「出来ねえってことだろ」
 それがこの扉。
 わかっているよ。
「うふふ、あーくっそー、自分ひとりで、なんとかしろってことかぁ」
「自分でやれってことだろ」
 それがこの 決して絶対に開かない 扉。
 互いの部屋を隔てている扉は、決して開くことはないのだ。まるで運命みたいに。
 わかっているよ。
 言ってみただけなんだ。
「あはは、まったく、しゅくめいってやつは、キビチイなぁ」
 言ってみたかっただけなんだ。
 あんまりにも
 楽しくってさ。
「よし、じゃあまたせーので湯を注ぐぞ、ゆっくりな、蒸気が立ち昇るから注意しろよ、火傷するぞ」
「わかったわかったよよしやるぞ早く重いよーつらいよ!」
「いいか間違っても覗き込むなよ……お前やるな、やりそうだもんなぁ……湯気に興味持つなよ!大変な事になるからな!」
「わかったってもー心配性だね君は!大丈夫だよぼくだって馬鹿じゃないって!それより早く!早くしようぜもう重い!限界!」

 そしたらきっと すごく良かった すごく楽しかったのに きっと 何よりも
 同じ宿命の 同じものを背負う この肩に背負う 大きすぎる でもきっと 君の姿を見る事が出来たなら
 ぼくとおんなじ こどもの姿の 闘っているんだ その同じ姿を 見る事が出来たなら きっと きっと何よりも
 だけど
 扉は開かない
 どんなに叩いても押しても引いても縋り付いても泣きじゃくっても開かない 決して開かない
「煙……湯気、湯気すごい。なんにも見えない、すごいこれ、すごい」
「……よし!おい、注いだか!?注げたか、大丈夫か!?」
「注げたよ!何だよ君馬鹿にしてんな!大丈夫!はー」
「よし、じゃ、薬缶を置け。ポットに蓋をして、少々待ちだ。休憩だ。はー」
「もう置いた。あ、蓋するの忘れた。はー……」
 やかんを放り出して、ぼく、多分松下くんも一緒。おんなじ。手足投げ出してへたり込んで長い息をついている。
 姿は見えない。顔だって知らない。会ったこともなければ、会えることも無い。
 だけど、
 だけどさ、
 それでも
「……どうした、何、笑ってるんだよ?」

 それだけでも

 楽しくってさ。


 きみが 居る って いうことがさ。




 おなかがほかほか、あったかい。
 テーブルの上に、並べたカップ。ソーサー。ティーポット。白地に青の、カタツムリとタコの変な模様の一揃え。
(松下くんが、ロイヤルコペンハーゲンだろ、って言った。これだからお坊ちゃまってやつは)
 おなかがほかほか、あったかい。
 ほっぺもふくふく、あったかい。知らない内ににんまり緩んじゃって直らないくらい。ぽっぽとまるまる、桃色だ。
 ふうふういって、熱いの含む。冷たかった喉がじんと痺れる。ごくりと、落ちていって、おなかの底でじわぁーと広がる。広がる。思わずはぁーって溜め息もれたよ。溜め息すらあったかくてほっくりとほぐれてく。
 おなかの底から、あったかい。
「あったまるねー」
「冷えてたんだな、ちょっと」
「おいしいねえ。こんなおいしいのは飲んだこと無い。あー、あったまるねえ。あったかい」
 あったかいねえ おいしいね
「ぼくらやったね」
「あぁ」
「世界を救ったよ」
「あぁ?」
 溜め息すら あったかくて 離れててもさ あったかくて
 ちょっとうっとりしちゃったよ。
 あんまりにも それでも あんまりにもさ、
 楽しくって。

 遠く どれほど遠く きみの居る場所 会えないけれど

 ありがとね。

 きみがいてくれて、うれしいよ。
 ありがとね。


「お前のおなかと人類の理想郷とどう繋がってくるんだよ」




 なんかよくわかんなくてうまく言えないんだけどいい感じ。