かみさまいるならきいてちょうだい
「あぁ困った、あたしは幸せになりたいです」


魔  法





 夜の暗さの中で、ジー、ジー、と発光する自動販売機の光を見ていたら、目の玉がじくじくと痛くなってきた。
 何買おうかなぁなんて悩んでたんじゃないわよ。そこがあんまり明るいから、誘い込まれたみたいに引きずられて、目が、離せなくなってしまったようなそんな、気がしていたのよ。なんて明るいのかなぁ、刺してくるみたいだ。夜道に目印みたいだな、迷う人なんていないけどさこんな、街中でさ。
 じんわり、染み入るように。痛いから目を閉じる。あたしはジュースを買いに来たのに、光の前で立ちすくんでぼんやり、全然動けない。
 動く気がしない。
 あたしの好きな人はあたしのことを、何だかこれっぽっちも想ってくれてやしないみたい、だからさ。

 あたしの名前を呼ぶ知っている声が響いて、わんこがころころ駆けて来るのにそっくりな、満面の笑顔が遠くから、ころころころころ、自販機の前に辿り着く。
「なんか遅いから心配して」
「鬼太郎が?」
「いえ、ぼくの判断ですが」
「あんた気ィ使うの上手いもんね」
 シーサー。
「そんなんじゃないですよ。人数分の飲み物ひとりで抱えてくるのは大変だからなって、鬼太郎さんそう言ってましたよ」
「そうだよ。あたしだって女の子だよ。ひとりで全部持ってこれるわけないじゃない馬ッ鹿じゃないの」
「ネコ娘さんが自分で、買って来るって言って、飛び出してったんじゃないですか」
 無謀にも。
 そうだよ。
 泣きそうだったのよ、あたし。馬ッ鹿じゃないの。あのままあの場にいたらあたし、泣き出すところだったのよ。だからジュース買ってくるって言って走って、出て来たのよ。そして自販機の光見つめてまた涙にじませる。目 痛い。
 痛いんだか悲しいんだかなんかもうわかんない。誤魔化したいんだ色々。今あんまりなんにも考えたくないんだ。ぼんやりさせる、頭。
 感じていることを形にしたくない。その事実を頭の中に置きたくない。ほんとうなんか見たくないのよほんとうだから。わかってたけど、あの人はね、あたしのことを、
 どうやらあたしが想っているようには、想ってくれてはいない様子、ですよ。
 すべてはあたしの空回り、で、終わっちゃっているみたい、ですよ。
「わかりきってることじゃないですか」
「何てこと言うのよこのタイミングで」
 とぼけた顔して目ざといから今こいつやだ。
「コンビニで買えば袋くれるのに、自販機で買っちゃったら、持ち切れないじゃないですか」
「うるさいなあ。こんな顔してあんな明るい所入りたくないよ。入れないわよ。入れるかっての」
「白状しちゃってますね。ぎゃくぎれですね。もうなんかやぶれかぶれですね」
「この顔見られて今更どう取り繕えっつーの」
 はいはい。シーサーはうなずきながら、口元をにやにや。大きくゆるませて笑い、それでもそのまま真っ直ぐにあたしの顔を見上げている。ほんとやだこいつ。あたしはフン、と声に出し思いっきり顔を背け、詰まった鼻を空に向かってずずり、すすり上げた。
 夜中の空気は濃いね。
 夏の終わりは特にね。
 生温く湿った夜気が、体中にまとわり付いてべっとり重い。汗ばんだ襟元を時々風が吹き抜けてゆく。手招きの、ふわりふわりと誘ってくるよな、浮かれた夜風。
 気持ちが弾むわけがない。
 ただ好きなだけで、良かったのになぁ。

 例えば初めは。姿を見ているだけで嬉しくて。
 朝日が昇るたびにまた新しく変わる、その姿を追いかけてゆくことがあたしにとっての幸せで。あたしは出会いを感謝しました。
 どうしてだろう。欲ですか。想っちゃっては、駄目ですか。いつも隣にあたしは居たのに
 あたしなんか女の子に見えませんか。女の子としては、映らないんですか。
 女の子として、側には、居て欲しくないですか。重たくなっちゃうんでしょうか。
 気付いているだろうに気付かない振りは、足枷を防ぐ為の拒絶?
 重たくなるのは、辛いよねえ。自由になれなきゃ、あなたがあなたでなくなっちゃうよねえ。
 そしてあたしはあたしのせいで動けなくなるあなたを見るのが一番辛い。
 では。それでは。あなたを想う度に焦がれる、あたしの、たったひとつの、願いは。
 まあ。絶望的。

「あたしさ今さ、誰か素敵な男の人がさ、『好きですお嬢さん』って言って手を差し出してきたらさ、そのまま付いて行っちゃう気がする」
「危険思考ですね」
 ほんとにさ、どうして、
 どうしてあの人、だったんだろうなあ。
 自販機の前に突っ立ったまま買う気配の無いあたしの横で、シーサーは黙って、ちょっこり座って、いっちょ前に付き合ってくれている。
「あたしを助けてくれるのだってどうせさ、近くで、名前を呼ぶから動いてくれるようなもんでしょあたしの為とかじゃなく自分の」
「近くで呼ばれたら普通助けますよ。すっごい卑屈ですねどうしたんですか、なーんでそんなひねくれちゃったんですか今日は」
「溜まってたんじゃない色々」
「人事みたいな言い方しますね。溜まってたんですねえ。あの相手はなかなか手強いぞ、って、ネコ娘さんは良く知っているはずですのにね」
 近くにいつも居すぎるから、わかんないんじゃないですか。
 あの人が?
 あなたも。
「ジュース買って帰りましょうよ。皆待ってますよ」
「……もう皆集まってるかな」
「いえ、ぼくが出てきたときはまだ誰も。でしたけど、多分そろそろちょうどいい頃なんじゃないでしょうか。ジュース持っておうちに着くには」
 そうかなぁ。暗い気分で、ふううと重い息を吐く。シーサーは顔をしかめる。あたしの手からお財布を取って、
「お金入れますよ。先ずコーラですよ。コーラ押して下さいよ、ぼく下で取ります」
「……コーラ」
 俺コーラ!って、あたしの後姿に向かってよくもまぁあんな脳天気な大声で
「コーラ投げたい」
「駄目ですよう」
 シーサーは、しっかりして下さいよう、と言いながら自販機をじーっと睨み続けているあたしを困った顔で見上げる。見上げて、それから、おや?
 おや? あれ? 不思議そうに首を傾げて、呟いた。
「おかしいですね、この自動販売機、虫が集まっていませんね」
「虫?」
「今頃、夏の終わりかけなんか、夜には電光に集まる虫凄いじゃないですか。でもこの自販機そういえば、さっきから虫一匹もいない」
「変なこと言うのね」
「変ですよ」
 ジュースの取り出し口の所でかがんできょろきょろして、シーサーはふむう、と、眉間にしわを寄せてみせてる。変っていうならあんたの顔も、あたしの思い通りに何ひとついかないこの世界も何もかも全てが変だわよ。吐き捨てて、あたしは自販機のボタンを押した。押したというより、拳で叩いた。真っ赤なコーラめがけて握り拳ドカンと叩き付けた。馬ッ鹿野郎!
 次の瞬間、しゅわああって、
 なにかの噴き出す音がして、
 炭酸じゃないの、真っ白な煙のようなもの。自販機の取り出し口の所から、凄い勢いで。真正面に居たシーサーは顔面に直撃を受けた。「シーサー!」あたしは驚いて名前を呼ぶ。しゅわしゅわもくもくと拡がってゆく煙に、あっという間に辺りは包まれてしまう。
 キラキラと光る、細かい、ラメの粒みたいな粉が、粉?空気中をびっしりと浮遊している。
「燐粉?」
「こんばんは」
 きれいな声が響いた。
 あたしの好みの声だった。
「こんばんは。やっとお目通り叶いました。愛しいお嬢さん」

「はっ?」
 きれいな唇に笑みを浮かべて、男はあたしを「愛しい人」と呼んだ。
 きれいな顔をした男が、あたしの前に、手を差し伸べて、立っていた。
「春が過ぎ、夏も終わりで、ようやくこうしてあなたに向かい合える時を得ました」
 肩までの黒い髪。細身の身体を覆う黒いタキシード。全身黒尽くめのくせに、キラキラと光って見える。黒の中に粒子が発光している。白銀にも見える。虹色にも見える。
「踊っていただけますか」
「はぁっ?」
「会場は目の前にあります。ほら」
 導くようになめらかに、撫ぜるみたいに男が手を指し示す。その向こうには、嘘でしょ、豪華なシャンデリア。色とりどりのまぶしいドレスを着たゴージャスな男女。耳に届く音楽に花の匂い。嘘でしょ、今まで、自販機があったじゃない。ちょっと歩けばコンビニがあって、えーと、
「踊りましょう。あなたと踊れる日をずっと夢見て来た」
 男があたしの手を取った。待って、言おうとしたのに口が動かなかった。言いたくないみたいな気持ちを、胸の奥に覚えた。あたし、踊りたかったの?
 そうじゃなくて多分、
 目の前に、あたしだけに向かって、微笑む、微笑みかけてくれる、顔が、あって、
「だー違うよ何考えてんの、そうじゃなくて、何?何が起こってるの?そうだシーサー、シーサーは?あの子どこ、大丈夫なの?」
「お連れの方が心配ですか?優しい人。あの子なら、ほら、あちらに」
 見たらさ、シーサー、女の子二人とけらけら笑いながら、ケーキ食べたり紫色のジュース飲んだりしてるの。けらけらけら。なんなのあの順応性。すっごい驚いた。
「あたしあんたの事知らない。ここがどこなのかわかんない。わかんないこと多すぎて嫌よ、困るよこういうの」
「私はあなたを、ずうっと見ていました」
「これ何の目的?何をどうしたいわけ?あなた誰なの、なんであたしを」
「あなたのことが、ずっと好きでした」
 くらり  と、
 目の奥が、回った。
 男は微笑む。きれいな顔できれいな笑顔を浮かべる。混ざりっ気無かった。嬉しそうだ、そう思った。この人今、ほんとに嬉しいんだ。
 大好きな人と一緒に、居られる。そのことが、とても、ほんとうに、こんなにも。
 いやだ、わかるよ。
 どうしよう。
「踊りましょう。夏の終わり。時間が迫っている」
 男の手は冷たくて、空気みたいに、羽根みたいに軽かった。
 現実感が無いみたいに薄かった。
 それで自分の手の重さを実感して、あたしは漂いかけた目を真ん中に据える。ダメだ、流されそう。我に帰って来れなくなりそう。
 おかしいでしょ、おかしいでしょ、おかしいよ、こんな。
「ずっと好きだったって、あたしを?」
「あなたです、愛しい人」
「何であたしなんかなんで……」
 違うのよ、違うの、言うべきことはこれではないでしょ
「春も夏もずっと、あなたを追いかけていましたよ。あなたは気付いていなかったけれど、あなたは目もくれなかったけれど、それでもあなたを追い続けていましたよ」
 あたし達はいつの間にかダンスフロアの中央だ。音楽が響いている。メロディの聞き取れない不思議な甘い旋律。すべらかに、なめらかに、あたしの手を取る手が、あたしの足を導こうとするステップが、動く。今まで味わったことの無い優しさで動く。あたしは顔を背ける。どうしよう。唇を噛む。知らないよこんな、
「私を選んでくれませんか」
「え?」
「“あの人”より、私を選んでくれませんか」
 あたし知らないのよこんな言葉。
「ちょっと……それどういう……」
「あなたの好きなあの人、は、あなたの事を全然、想って、くれないんでしょう」
 ぐらり くらぐら 目の奥 回る。
 お願い
 それ以上を口に出すな
「秘めた想いを、気付いてもくれずに。ほとばしる想いを、流されるだけ。ずっと見てきたんだ私は、知ってる。あなたがどんなに強いか、はかないか、傷付き続け笑い続けて、来たのかを」
 回る。回転。ダンス。告白。
 あたしの体が男に引っ張られている。
 くるりと回って、スカートが広がった。花みたいだ、ぼんやり思った。ぼんやりした頭の芯から、涙が一滴、ぽたりとつたうような気がした。
「あたしはそんなに、辛くない」
「幸せですか?あの人、を、想い続けることが、あなたにとって本当の、幸せですか?」
 永久に振り向いてくれないかも知れないあの人。
 こころ折れてひびが走る。引き裂かれそう。
「そんな男は、忘れてしまって下さい」
 好きな人が傷付いているのを、これ以上見すごすわけにはいかない。
 男はそう言った。そう言って、あたしの手を、両手で包み、ぴたりと急に足を止める。
 止まない音楽、
「行きましょう」
「え?」
「私と一緒に行きましょう。夏も終わり。これから旅立つのですよ」
「何それ……」
「あなたを連れて行きたい。幸せな温かい場所だ。光の場所です」
「やだよ……」
「拒みますか?」
「急になんだか、わかんないよ、困るのよ……」
 回る回る目の奥ずっと回り続けてる。泣きそう。
 あたし幸せになれないかな。
 このままじゃ幸せになれないのかな。
 願い続けてきた、祈りは、
 結局叶うこともなくって
「こんなにも必死に、こんなにも懸命に、想い続けていたあなたを、見ない振りする相手など」
 耳穴に滑り込んできて、体中に広がるその声。
 永久に届くことなど無いんだ
「忘れる事が、あなたの幸せです」

「やだよ」
 あたし泣きそう。
 でも泣かない。
「忘れたくっても、忘れられないよ」
 だって奇跡だもん
 あたしは出会えたんだもん
「消したくないよ。消さないよ」
 手を伸ばせば触れられるその場所、その側に、居られるということが、
 居られるということだけもうそれだけが、
 奇跡だよ。
 いるならかみさま、ありがとう。
 だから死んでもそれだけは、失くしたくない。
「好きだよ、好きなの、絶対、絶対に好きなの」
 届かなくても 叶わなくても
 選ばれなくても。
「だからあんたの言葉には応えられない。あたし、帰らなくちゃ」
「言葉、だと、切り捨てますか。あなたも大概残酷だ。見ない振りして拒絶する、あなたがさんざん受けてきた仕打ちで真似てみせ付ける。そんなに好きかあの男がそこまで良いですか」
 ごめん、この言い方でしか出来ないけど……って、あたしが返そうとするその目の前で。男の黒い髪はぶわりと逆立ち空中に膨れ上がり、両手を浮かせたその体からはたなびく黒い煙がまばゆい光をまぶして、しゅうしゅう音を立て立ち昇る、広がる、あたしに向かって伸びてくる。ひゃあ。あたしは口の中で小さく悲鳴をあげ、踵を返して走り出した。男の顔は笑顔を貼り付けたまま歪んでいる。牙をぞっくりとむき出して発光させている。
 あぁやっぱりなぁあたしに甘い言葉をかけてくれる人ってさ、あんまり普通であった例がないんだよね。
 心の中で片眉をひそめる。パーティー会場は大混乱だ。きらびやかなドレスのけたたましい嬌声、おののき引き攣るうめき声、呪い、享楽、渦巻く、瘴気、あたしは走りながら声を張り上げる。「シーサー何処っ!返事して!」
 見るとシーサー、壁際の大きな花瓶の中にすっぽりと埋まって首だけ出して、すっかり酔いつぶれてヘロヘロ笑ってるの。返事しろ!泣きたい。
「何やってんのよもー起きなさい!逃げるよ!」
「んーなんかぼくもうだめですかもー」
「馬鹿じゃないのもーっ!」
 引っぱり上げる。背後を振り返る。黒い煙はずるずると迫って来ている。花瓶からはなかなか外れてくれない。あたしはあーって叫びたくなって来る。壁という壁床という床、けばけばしく滲み鏡のように歪み、上も下も無くどんどん迫ってやって来る。中央にあるのは男の執念だ。想えばいいってもんじゃないでしょ、追えばいいってもんじゃないでしょ、憎々しげにぱっくりと開かれた熱い口、赤く呪いを吐く、「どうしてわかってくれないんだ愛しい人」あぁもう、
 そんなこともわかんないの?!
 黒い念がしゅるり、と、あたしの手首を捕まえた。満足気に伸び上がり、あたしに覆い被さろうとしている。飲まれる。嫌だ。冗談じゃない。
 光の粉が飛んでいる。こんな時でもそれでもきれい。嫌だ、嫌だよ、ふざけるな。食いしばる歯をがばりと開く。鼓膜をつんざけ声を出せ。
 だってあたしは、
 それでもあたしは、
 あの人のことが、
 あいつのことが、
 あんなやつの、ことだけを
 叫べ!
「助けて鬼太郎!」


 まばゆい閃光がはじけた。
 光が輝き、その場に、ばちばちばちと音をたて、炸裂した。
 何が起こったんだかわからない。

“光だ!”
 そう聞こえた。
“熱だ、熱だ!”
“光!”
“まぶしい!”
“ゆくぞ” “そこへ、ゆくぞ!”
 タガの外れたような熱狂的な音、極めて小さい幾つもの声が、あたしの体の側で爆ぜて、形の見えないまま一直線に光速で、まばゆくはじけるその一点へ、集まって行く。
 焦げる匂い。

 燐粉だ。
 光の粉は、燐粉だ。
 羽ばたきの振動に合わせ軌道を描き、グラインドして、カーブして、大きな渦巻きになり一点へ突入する。
 輝きの軌跡。
 道みたいに見えた。
 道の先に居るのは。
「猫娘かー?」
「鬼太郎っ!」
「うわあなななんだぁっ?!」
 あたしは駆けた。
 跳び付いた。
 あたしの腕の中にその身体がある。
 抱きしめれば抱きしめられるくらい、ほんとうにそこにある。
 声を上げて、わんわん泣いた。

 あぁもうあたし、あんたのことを、絶対絶対大好きだ。
 だから良かったら、
 もし望んでくれるなら、
 あたしはあんたを、一生かけて絶対に、幸せにしてやる。
 だからどうか、
 どうか お願いだから、
 ずっとそこに居て。

 ここに、この場所に、いつまでも変わらず、このままで、
 離れていかないで。側に居て。

 一生報われなくったっていいからさ。



「鬼太郎さん何してたんですか」
 ぺちぺちと頬を叩かれて、ぐにゃぐにゃの情けない声を出しながら問うシーサーに、
「花火だよ。残ってたからやっちゃおうと思ってたんだよ。けどお前たちいつまで経っても帰って来ないしさ」
「花火だったんですか?」
「うん、さっき凄かったんだぜ。点火した瞬間に、こう、めがけてさ、どこに居たんだかわからないけど、集団の羽虫が」
 ひかりをめざして
「突っ込んで来たんだ。羽根を焦がして、大半は空へ昇って行った。燃えてしまったものもいる、あ、そこ、足元。何が起こったんだか彼ら答えないんだ」
 見上げた空の一点に、こうこうと輝く満月。
「驚いてたら、お前たちいつの間にか、そこに立ってるんだもんな」


『あなたのことが、ずっと好きでした』


 満月、シャンデリアみたいだよね。
 そこへ行ったのかな。
「ありがとう」
 見上げて、呟く。
 その言葉さ、自信になったよ。勇気に、なったよ。
 だからあたしも、
 ずっとずっとずっと、好きでいるんだ。

 振り返りながら、笑顔に、戻る。
 かみさまありがとう。
 かみさまおねがい。


 これがあたしのしあわせだ。