プールフールブルー(創作・某洋楽バンド・兄弟/二胡)




 もうすぐで兄ちゃんの誕生日だから、何をあげよう。
 あいつは宇宙へ、なんて大ボラをヘラヘラかましていやがったから、そうだ宇宙旅行の切符(本物だ!)なんていいかも知れない。
 俺があいつを宇宙へ連れてってやる。(勿論、本物のだ!)
 俺が連れてってやんよ。

(肩で風切るガニ股歩きの大股歩き。天気は快晴。サングラス、すこぶる上機嫌)



 もうすぐで弟がスタジオに到着するらしいから、俺は帰ろうと思う。
(放せふぁっきんメンバーふぁっきんスタッフ共、俺は今すぐ逃亡するんだ)
 神様、俺の大っ嫌いな神様。なんだってあんたはあんな奴を、俺の弟になんてしちまってくれたんだい?
 おかしいよ、俺の弟って奴は。異常なんてもんじゃないね、イかれてる。
 神様あんた、なんであんたはあいつが生まれ落ちる時、その手にちょっとはマシな人間性とか、良識とやらを握らせてやってくれなかったんだい。
 あの声の他には何も。
 そら、あの天にも轟く。あんたの座る天国の、玉座の御許にまで轟き渡るような、あの声の他には、何も。



 調子こいた野良犬が、俺の行く手を塞ぎやがって吠え立てやがるもんだから、脳天まで蹴り叩き込んでやったぜ。
 尾っぽ巻いてキャインキャイン逃げてったと思いきや、背後から登場お馴染みのふぁっきんパパラッチ共だ。ドーブツアイゴのダンタイ様ガネー、明日の新聞一面これで決まりだな良かったな。ほらよいつものトレードマークだファックピース、ヘーイ。
『自分の子供に、見せられないとは思わないんですか、そんな姿?』
 俺の息子もこの間、おんなじピースで写真に収められたぜ心配すんな。
 今日の俺は機嫌がいいんだ。
(良く晴れて陽のまぶしい大通り。サングラス反射して、絵に描いたような倣岸闊歩。ご機嫌、ご機嫌。)

 兄ちゃんに、宇宙への乗車チケットを買ってあげよう。
 俺はなんでもできるんだ。客の前で、あいつの耳元で、俺はずっとそう。歌ってきたんだ。
(何回も!)
 俺はなんでもなれるんだ、俺はなんでも言えるんだ、
 俺はなんでも出来るのさ、
 そう俺に、歌わせてくれたのは。これを歌いやがれと俺に、与えてくれたのは。



 弟、あいつのご機嫌ひとつで、この場はパラダイスにも地獄にもなる。わかってんだろ?
 俺が眉毛をしかめて低く静かに呟いてみせると、皆一様に黙り込む。わかってんじゃねえか。ならよ何度も言わすなよ。
 あいつは一瞬で周りの人間を、最高の気分にも最低のどんづまりにもさせちまう事可能なんだ。そんな奴とよ、生まれた時からずっと一緒にいてみろよ?人生無駄にするって事がどんな事かこの上なく理解できるぜ。さて俺は3日前、あのふぁっきんクソ野郎と殴り合い寸前の争いを繰り広げたばかりだ。2週間程度は顔合わさない方がお互いの為にもいいだろう?もう過去にも何度も繰り返してる事だ。わかってくれたか?以上だ。
『でも、』でもってなんだよ、
『「兄ちゃん居るのか、今すぐ行くぜ」って言ってたよ』何言ってんだクソったれ、冗談だろ。
『居たのに帰った、なんて気付いたら、荒れる所の話じゃないと思うけどなぁ』あいつの言葉を信じるな、あいつが善良だとでも思ってんのか?
『素直、率直、一本気、バカが付く程てらいのない、嘘をつかない、そういうさ、』
 黙りやがれ。
『同じ事が言えるよ、君達、兄弟。』
『弟の方がちょっとばかし、ストレートに過ぎるっていう、さ。』

 それならあんたは何の為に、弟に歌わせるの?
 誰もが口を揃えて言う。俺らの毎度の派手な兄弟喧嘩がプレスを湧かせるその度に。
 あんたの作った大切な歌とやらを、あんたの憎む弟に、歌わせ続けて何年が経つ?
 金の為だよ。
 自分でだって歌えるくせに。
 金の為だよ。言ってるだろ。
 ……あぁ、もう、わかったわかった、俺にこう言わせるつもりなんだろ、「俺は弟を愛していて必要で、奴の方もそれは同じ」ってな。違う。そんな事じゃねえんだよ、確かに俺だって歌えるし、俺の方が上手いけどな。でもな。
 そういう事じゃねえんだよ。もっと……何て言うんだろう、俺の声じゃ、駄目なんだ。あの声が。あの阿呆のどうしようもない、あの声が。
 あの声で、歌ってもらわないと、完成しないのさ、歌ってもらわなければ。
 クソったれの神様が唯一奴に握らせて贈った、あの、唯一無二のただひとつで
 歌ってもらわなきゃなんねえんだ。
 でなきゃ、言ってもらいたいのかも知れない。
 俺の作った、俺の歌。そうさ、あの声で、俺の隣で、天まで轟けクソったれ
 俺はなんでもできるとか
 俺達は永遠に生き続けるとか
 そこに愛が ありますように とか




 俺はなんでもできるから、
 望むんだったら宇宙へだって連れてってやんぜ。
 ……いや、でもな、やっぱり少し心配だな。宇宙ってな何だよ、だいたい。
 あんな所なんてよ、ふぁっきん空気がねえんだろ?そんな所にあの俺らの可愛子ちゃんを飛ばせられねえわ。落ちたら大変だし。最近なんかあいつやたら「俺が落ちたらー俺が落ちたらー」なんて歌詞書いてるしよ、阿呆か。
 でもなぁ万が一、落っこちて来たら、俺が受け止めればいいだけの話か。
 今度言ってやろう。
(上天気。ご機嫌。サングラスはぴっかぴか。うん、絶好調だね。)
 あぁいい天気だなぁ。
 きれいな空の色だなぁ。そうか。
 兄ちゃんと俺の目の色だな。
 おそろいか。


「おかしいよ、俺の弟は。異常なのさ、イかれてる。
 可笑しいよ、俺の弟は。俺を笑わせてくれる。
 俺が笑うと嬉しそうなんだ。」
 まったくもって、おかしな話だろ?

 なぁ神様、全ての無神論者達の神様。俺以外に誰があいつを生かしてやれるっていうんだ?




 兄ちゃん俺ら、なんにでもなれるぜ
 何度でも言ってやる。
 兄ちゃん俺ら、なんだってできるぜ
 兄ちゃんと俺が、一緒なら。
 なぁ兄ちゃん、愛してるぜ。
(知るか、くたばれ、クソったれ。)



「ハローーーウ愛してるぜぇ兄ちゃん!」
「帰れ」
「ふぁっきん兄貴てめえーーーー!!」
「あぁ何つったこのふぁっきんクソ弟ーーー!」