いつもの朝いつもの隣人 (もやしもん・直保とか/二胡)



 おまえらちょっと何言ってんだ 何難しい事話してんだわかんねえよ 普通にしてろ 普通に
 ふつうに

 そういえばガキの頃とかさ、
 普通に って言われるの、大嫌いだったなぁ。
 俺にしてみればの普通の世界が、いわゆる「ふつうの」人達の、それとは大いに違っているって、
 気付いたからって、どうにかしよう、出来る、なんて話じゃ、ないからさ。
 個性 なんてそんなもんで済むレベルじゃない。
 ふつうに ふつうに なんでできないんだろう ぼくだけどうしておかしいんだろう ぼくだけみんなとちがうんだぼくはおかしいんだふつうじゃないんだだからみんなからきらわれるんだいやがられるんだひとりぼっちなんだ
 あー、思い出したら落ち込んできましたよ。
 膝なんか無意識の内に抱え込んでたりして。

『どうしたただやす、食べて元気になれ。』

 そんなあんまり健やかじゃない思い出のあの日々の中でも。
 まぁ、なんとか、「普通に」やってこれたのは、
 蛍とかじいちゃんとか。かならずしも理解できないと首を振って居なくなる人達ばっかりじゃなかったって事と、
 あそぼうただやす かもすぞただやす だたやすよびづらいぞただやす ただやすわらったなただやす ただやすただやすげんきだただやす
 菌どもおまえら。俺の「普通じゃない」原因の癖に、いっつも隣で、わいわいやりやがってくれたおかげなんだよな。

 ただやす ただやす 名前を呼ばれ、騒々しいんだよ安眠させろと朝が来て、おはようございます。
 朝メシ漬物醤油味噌汁。ただやすのなかいってくるぞわーがんばれがんばってこいよーうるせえけどこれは慣れた。
 ほんとまぁ気付けばいつもおまえらが居て。おまえらもよくまぁ飽きることなくいつも変わらずそこに居るもんだ。
 ただやす ただやす この際だから おまえにもひとつ 言ってやろう
 は?
 あいされてんな ただやす。おまえは。

 ばっか何顔あかくしてんだよ ゴスロリキッスの件とかじゃねェよ あんちょくもんー わかいな わかいっていいなァ
 おまえはあんまり気付いていないが よくよくまわりをみわたしてみろ
 いままでにないせかいがひらけてるだろ
 そこからおまえは まぁある意味なんにでもなれる
 カラを破る手助けをしてくれようってやつらが たのんでもいねェのに集ってくれてんだぞ
 みまもられてんな ただやす。蔵んなかで膝抱えてた頃は終わった。
 みまもられてんぞ ただやす。
 良かったなァ。


 うるせえんだよ菌どもはよ。ふとんにくるまり耳まで隠す。だからいらねえ学つけてくんなよどこで覚えてくんだそういう人生考証。
 もう寝るもう寝るもう寝るぞ、明日一限からなんだ明日も早えーんだよ後で樹ゼミにも呼ばれてるし長谷川さんにも用事があるって
 あぁ、先輩たちに、ゼミの後付き合えって言われてたんだよな なんだろう亜矢さんの店で作戦会議だって 何会議? ムトーさんも来るのかな ムトーさんがいるなら及川だって来るかなぁ 蛍は… 蛍は、呼んだら、たぶん…
 あ。
 そうだなぁ。
 そしてうとうとしながら、思ったわけだ。
 愛されてるかはともかくとして。俺、そうだな、見守られてんな。
 もう「ふつうに」してなくていいんだから。
 この日常が、俺の、普通。なんだから。

 なんだよただやす寝ちまったぞ 寝つきはえー あいかわらず単純なやつだっ せっかくのいいはなしがだいなしだ だいなしだー
 いつもの朝を迎えられて いつもの隣人がそこに居るってゆうのは なんて幸せなことなんだろうなあ
 渦中の人間は たいていそれに気付けないものさ


 いじめられてたころ、理解されなかったころ。泣いてた俺に菌どもはこう言いました。
『どうしたただやす、たべてげんきになれ。』

 はい。
 とりあえず頑張って、明日も息吸ってます。