縋りつく素直さ (悪魔くん千年王国・占い杖/二胡)




 私、杖です。
 ふたつ居ます。
 顔がついてて、ふたまたの、そう、シャムのようです。
 双生児。

 生きています。動きます。
 喋れません。
 意思疎通願い要望思いを伝えることが難しいのです。
 持ち主は私の事を「雄弁だな」と微笑みました。
 振り返って、少し微笑んで、夕暮れ、色々のものがよく見えなくなるその間だけ、
「お前は実に、良く喋るよ」多分あんまり誰かが見たことはないその少しだけの、微笑みが、
 私を見下ろし、その指で、くしゃくしゃと髪を、撫でました。

 あんまり言葉を使えません。
 喋れないから。
 多分、私が、あの人の、
 そんな姿を見れたのは、そんな言葉を、かけてもらえたのは、
 私が言葉を操れないから。ものを言うことが出来ないから。
 あなたに何かを伝えることを、私が一生出来ないから。
 あなたの頭の中の創造の私だけ、あなたの心に、映っているから。
 だからあなたは安心して、私の髪をいい子だな、と。
 物言わずひたすらに追い縋って来るもの
 ひたむきに見上げまっすぐに飛び込んでくるもの
 それならばそれはもう無条件に、愛するしかないもの。

 だけど私は
 それしか出来なかったんだ
 それしか出来なかったんですよ

 お願いまだここに居て
 口に出せれば 言葉に出来れば
 まだ行かないで まだ側に居て
 どれほど願ったことだろう
 まだあなたは まだ まだ
 ずっと遠くへ行ってしまう予感がしてた
 どうせいつかは行ってしまうのなら それならばまだ お願いまだ まだ
 伝える方法を持ってなくて
 私は縋り付いてまとわり付いてそれだけでそれしか出来なくてそれで

 言葉を持ってる、あの者達が、
 悔やんで泣くのを、憎んで見てた。
 言えたくせに いつだって
 伝えられたはずなのに どうしてだ
 言葉を持っているくせに
 言葉を持っているくせに。

 大好きよ。
 夕暮れ、あやふや、ぼやけた時間、
 私は背伸びして、小刻みにジャンプして、
 あなたは私のその姿を、静かに黙って見下ろしている。
 占い杖が楽しそうだな。
 夕暮れ、陰る時間、誰も知らない、隠した唇の、
 楽しそうだな
 唇が浮かべた微笑みで、見下ろして、
 私はうんうんと口の無い口で一生懸命食いしばって、唸り声を上げながら、
 腕の無い腕を伸ばし、指の無い指であなたの、
 そこに、触れたくて
 届くかな
 届くかな
 なんだか 占い杖が 楽しそうだな
 あなたの唇が、楽しそうに笑っていました。
 届くかな
 届くかな
 大好きよ

 大好きよ

 あなたのことが、大好きよ。