松岡鬼太郎 (ニ胡)
警察から「あんたにですよ」って、日記帳が回ってきた。だからそれは僕じゃないって言っているのにわかってくれない。あんた何を言ってるんですかって顔をしている。「いや僕だけどそれは僕にじゃないんですよ」「ここに御指名されてるじゃないですかあんた以外に誰も居ないじゃないですか」「いえ根本的な所で違うんでしてねその」「はあ?」
疲れました。
せっかく回って来た事だし、綴ろうかと思います。
街頭に立っていたくまのぬいぐるみが道行く人々に手を振っていました。
ねずみ男が「バカお前あれは着ぐるみだ中に人入ってんだ」と言いました。若干二人とも酔っ払っていたんですけど。ええお昼でしたけど。
マタタビ酒でね、天気が良くてね、気持ち良くて、
道行く人々がみんなお祭みたいに見えてね、愛しげで、
くまのぬいぐるみがみんなに手を振っているんですよ。
やさしいなあ。僕は酔っ払ってた頭で嬉しいのか、切ないのか、ギリギリの感覚になって笑いました。やさしいなあ。みんなにやさしくしたいんだなあ。くま。あぁやさしくなりたいよぉ僕。涙出そう。
おっまえ泣き上戸かよ ねずみ男が酔っ払い特有の頓狂な声を上げてゲラゲラ笑います。ほらくま呼んでるぞ、両手広げておいでおいでしてるぞお前のこと どっかの楽園じみてるな 道端で、やっすい楽園だぞほら
いいよ止せよとぬるい抵抗むなしく、ねずみ男のぐいぐい押す手に顔がめりこむ、くまのおなかにめりこむ、ふっかり。いいにおいがしました。日向で焼けるいいにおいがしました。ふっかり。ぬくさに、軽く息が止まる。涙腺が痛い。
ねずみ男が僕の頭をおしつけたまま、ゲラゲラ笑ってる声がぼんやり響く。目を上げると、僕を抱きしめたままふっかり笑っているくまの笑顔。
嬉しくてですね頭の中光り輝くように無性に嬉しくてですね、
やっちゃえやっちゃえ って声が聞こえて、あぁやっちゃうよもう と僕はくまのほっぺにキスしました。
ねずみ男の囃子声と道行く人の笑い声と拍手。
空は青くて酒臭くてハイでほがらかで、僕は。
ねずみ男は言いました。なんだよおめえやればできるじゃねえか
殻破り。
とりあえずポストで郵送しておいたので、次の誰かに回ればいいなあと思います。
024 に続く!