河原かん平 (ニ胡)



上流から何か、ひらひらしたきれいなもんが流れてきて、
開いてみたら日記帳で、しかもまだたくさん書けるじゃないかもったいない。
誰かに回しますなんて俺でもいいのかなぁ。ということはこれは俺に回って来たのかな。遠くからごくろうさまなことだな。コーヒーと世話焼きと子供の手のひらの匂いがする。
何を書こうかな、思ったものの書いてみること、何一つ浮かばねぇや。葉っぱの間から陽はちらちらとこぼれ、水面に揺れて銀紙みたいに光っている。上空から吹き降ろす風の声、遠くからかすかに聞こえるお囃子の声、俺が毎日触れてる世界。昼になったら三平は学校から帰ってくるだろ。タヌキは今頃芋をふかして待ってるだろ。死神はまた何気ない顔して芋を食っていこうとしてさ、小人の家族は自分らの小さな家を作ろうと走り回ってるんだ。
ずっと変わらないのかな。
永遠に変わらずこんな毎日が続いていくのかな。
あれどうしたんだ俺。何だか泣けてきたぞこれ。
涙のまぶたに陽射しが刺さって口ん中がじんわりとほろ苦い。
頭の中がぼうっとする。水面はきらきら光って揺れている。どこまでも遠くへと光ってまばゆい、まばゆい、終わらない、
永遠に変わらないのかな
いつまでも続いてゆくのかな

家に帰るとタヌキが、三平はまだ帰ってねえよ と言う。
そりゃそうか、まだ昼前だもんな。でも泣いたら腹減った。
日記帳の事を相談してみると、「そりゃおめえ、こんな山奥に留めておくより都会に送った方が親切なんじゃねえのか」と冴えた答えが返ってきた。タヌキの割に頭が回るよな。
芋をふかして、小人たちに食わせた。すんげえ馬力のエンジンかかるから、夜には都会の方に届くだろ。良さそうな人に渡してこいよ。
しかし、におうよなぁ。
ぴかぴか、辺りに、光るようなにおいだよなぁ。目を開けていられない。
泣いてるどころじゃねえよな。



025 に続く!